記録 · 研究 / メディアアート · 2020.02
他人の顔に埋没する自分の顔
顔の写真5000枚で、体験者の顔をその場で組み直す
カメラに映った自分の顔が、5000枚の他人の顔で組み直されて画面に出る。SNS の中で個人の「らしさ」が他人の「らしさ」に飲み込まれていく感覚を、説明せずに体験させるメディアアート作品。
他人の顔で、自分の顔を組む
つくったのは対話型のメディアアート作品だ。テーマは「現代社会において埋没した『らしさ』を提示する」こと。
仕組みは単純だ。顔が主題の写真を5000枚用意しておき、カメラに映る映像をタイルに割って、各タイルの色に近い写真を敷き詰める。遠くから見れば自分の顔で、近づくと他人の顔でできている。p5.js で書いた。仕組みとしては、リアルタイムに動くフォトモザイクだ。
説明文を読ませないことを条件にした。「他人の顔で構成された自分の顔」が画面に出た瞬間に、言葉なしで分かる必要がある。分からなければ作品として失敗だ。

毎フレーム5000枚を探さない
リアルタイムで動く動的フォトモザイクは、画質と速度の両立が難しい。画面は 960×720、タイルは5px角なので、1フレームあたり 192×144 = 27,648 タイルある。そのすべてで5000枚から1枚を選び直すと、1フレームで1億3824万回の比較になる。素直に全部を比較すると間に合わない。
そこで、探索そのものをやめた。RGB を各3段(低・中・高)に割ると 27 の枠ができる。5000枚を平均色であらかじめその枠に振り分け、枠ごとの索引として書き出しておく。実行時は、タイルの色が R→G→B の6回の比較でどの枠に入るかを決め、その枠から1枚を無作為に引く。1タイルあたりの比較は6回、フレーム全体でも16万6千回で、総当たりの約800分の1になる。

この方式は「最も近い1枚」を選ばない。同じ枠から毎回ちがう1枚を引く。だから同じ色の面でも同じ写真が並ばず、遠くから見れば顔として成立しながら、近づくと1枚ずつ別人になる。速くするための工夫が、そのまま見え方をつくっている。

振り分けの実数も残っている。5000枚のうち2,699枚が中央の枠に入った。顔写真は肌の面積が大きいので、平均色が中間に寄る。1枚も入らなかった枠も4つある。枠は1段あたり85階調と粗い。近い色を正確に当てているのではなく、色の帯を当てている。
この仕組みは、いまブラウザで動かせる。ただし素材は顔ではない。顔の写真は公開できないので、そこは猫と夕景で代えている。
ブラウザで動かすカメラに映った顔が、300枚の写真でその場で組み直される
作品の評価
評価は、テスター8名に集まってもらい、約1時間のワークショップとして行った。Instagram についての前提を先に共有してから体験してもらっている。
「Instagram では、個人のらしさが埋没していると思うか」と聞くと、大多数が「はい」と答えた。感想には「自分の存在が飲まれ、気持ち悪い」というものがあった。狙った感覚は出ている。
ここから言えるのは、体験者の中に潜在していた考えが意識化された、というところまでだ。
